第89回葬儀費用に相続財産を使用するには~相続預金の払戻し制度~放送日:2020.01.16
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預貯金の払戻し制度の創設 2019年7月1日
登場人物:夫、妻(質問者)、長男、次男
財産内訳:自宅(3000万円)、預貯金(1200万円)
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- Q.
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先日、夫が亡くなりました。葬儀費用で200万ほど必要なのですが、私は貯金がないため、可能であれば亡き夫の預貯金から引き出したいと考えていますが、可能でしょうか?
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- A.(改正前)
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平成28年12月19日最高裁判決により、「相続された預貯金は遺産分割の対象となり、遺産分割が終了するまでの間は、相続人全員の同意がない限り、相続人単独での払い戻しは原則としてできない。」とされました。
相続人の生活費や被相続人の葬儀費用など、急ぎの支払いが困難になってしまいます。
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- A.(改正後)
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そういった事情を考慮し、遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、今回の相続法改正により「相続された預貯金について、相続人全員の同意がなくても、遺産分割協議前に払戻しが受けられる制度」が新設されました。
この制度は、以下のようなルールがあります。
共同相続人のうちの一人が金融機関の窓口で仮払いの請求をする場合は、相続開始時の預貯金額×1/3×その相続人の法定相続分=単独で払戻しをすることができる金額となります。今回のように1200万円の預貯金があり、共同相続人が配偶者と長男、次男の三人で、配偶者が払戻しの請求をした場合、
1200万円×1/3×1/2=200万円が、妻が払戻しを受けられる金額です。
ただし、上記計算式で算出した金額の範囲内であれば自由に引き出せるというわけではありません。
この改正法の趣旨は、残された人が当面お金に困らないようにすることなので、改正法では、「金融機関ごと(複数の口座がある場合は合算)の上限金額」を省令で定めることとしており、その上限額を150万円(標準的な必要生計費、平均的な葬儀費用等を勘案した法務省の定める額)とする案が2018年9月28日に公表されました。なのでこの場合でも引き出せる限度は150万円になります。