第330回事例をもとに学ぶ「不動産相続」:分割方法としては、現物分割・代償分割、換価分割・共有分割があります。放送日:2024.8.8
-
- 【質問】
-
私は今年で70歳になり、これまで健康にやってきましたが、いざという時のために相続に備えた準備をしておかなければならないと考えるようになりました。私の相続人は子ども3人になります。子ども達には、平等に相続財産を分けてほしいと考えていますが、私の相続財産は自宅と賃貸に出している分譲マンション1室があるのみです。このまま私が何も手当をしないうちに私の相続が開始してしまうと、残された相続人3人はどのように財産を分割することになるのでしょうか。
-
- 【解説】
-
相続財産が不動産のみである場合、現金・預貯金と異なり、きれいに3分割することが難しく、残された相続人間で争いが生じるリスクがあります。
分割方法としては、
①現物分割:不動産そのものを分け、各相続人が単独で所有権を取得する方法
②代償分割:誰かが不動産を相続し、他の相続人へ代償金を支払う方法
③換価分割:不動産を売却し、全相続人で売却代金を分ける方法
④共有分割:法定相続分に応じて不動産を共有する方法
-
- ①現物分割
- この方法が原則的な方法です。価値が同一の不動産が相続人の数だけある場合等、それぞれの相続人が各不動産を平等に所有できる状況であれば円滑に進みますが、そうでない場合には、1つの不動産を複数に分割して各相続人が取得することになります。遺産分割の調停や審判においては、まず、現物分割で解決することができるかを検討し、現物分割が適当でない場合には、②以下の方法が検討されることになります。
-
- ②代償分割
- この方法は、相続人の誰かが相続不動産に居住している場合には、使いやすい方法です。ただし、この方法のデメリットは、不動産を相続したい相続人が他の相続人に対し、それぞれの法定相続分に応じた代償金を支払うことになるため、不動産を相続したい相続人に支払能力がなければ採用することができないことです。また、この方法を採用することを決定したとしても、不動産の算定方法について、時価、固定資産税評価額、路線価のいずれで評価するのかについて揉めるリスクがあります。
-
- ③換価分割
- この方法は、全相続人間でこの方法を取ることにつき異論がなければ、最も使い勝手のよい方法といえるかもしれません。協議や調停等の話合いにおいて、この方法を取ることにつき合意に至らなかった場合には、裁判所が遺産分割について決定する審判手続きに移行します。そして、現物分割ができず、代償分割する資力がある相続人もいない状況等、換価分割が遺産分割の解決に必要な場合には、裁判所は、審判の途中に換価分割を命じるという流れになります(家事事件手続法194条)。この方法のデメリットとしては、十分な時間をかけて不動産売却の好機を伺うことが難しいことや、地方の条件の悪い物件であると、そもそも売却先が見つからないということが考えられます。
-
- ④共有分割
- この方法は、争いなくいったんは相続手続を終わらせることができるかもしれません。しかし、不動産を共有状態にしておくと、トラブルの温床となり、この方法を取ることは問題解決を先延ばしにするだけといえます。共有物の管理行為(賃貸借契約の締結(ただし、一定の範囲内のものに限られ、これを超えると処分行為となります。)・同契約の解除、賃料変更等)については、共有者の持分の価格の過半数によって決定されます(民法252条)。また、共有物の処分行為(売却、担保権の設定、大規模修繕等)については、共有者全員の合意によらなくてはなりません(民法251条)。不動産を共有状態にしておくことは、管理行為、処分行為をすべき局面になっても、共有者の意見がまとまらなければ何もできず、財産が「塩漬け」状態となってしまう大きなリスクがあります。