第211回事例から見る不動産相続【配偶者居住権】放送日:2022.05.05

  • 【事例】
    自宅4,000万円と預貯金1,000万円の財産を持っていたAさん。
    Aさんには奥さまと、一人の娘さんがいました。
    残念なことに、奥さまと娘さんは仲が良くありません。
    そして関係は修復されないまま、Aさんが亡くなってしまいました。
    また突然のことで、Aさんは遺言を残していませんでした。
  • 【整理】
    • 相続財産:自宅4,000万円と預貯金1,000万円
      相続人:妻、娘
      ※遺言はなし
    • 法定相続分通りに分けるとなると財産は2分の1ずつ分けることになります。
    • 奥さまとしては、「これまで夫と暮らしてきた自宅に住み続けたい」
      娘さんとしては、「法定相続分通り1/2の財産が欲しい」
    • 法定相続分で相続しようとすると、2500万円ずつ、遺産を分けることになりますが、預金は1000万円しかありません。
      娘さんに残りの1500万円を相続させるためには、最悪の場合、自宅を売却しなければいけなくなるかもしれません!
    • 高齢である妻が、住み慣れた自宅を売却し、新しい住まいを見つけるのは大変な話です。
      高齢者の方は比較的、賃貸物件を借りる際も審査が厳しい傾向にありますし、住み慣れない町に引っ越すことは、非常に大きなストレスになると思います。
    • このような事態が起こらないようにするために、2020年4月から新しく認められた権利が、配偶者居住権という権利です。
  • 【配偶者居住権】
    • 配偶者居住権とは、「自宅を、住む権利(居住権)と、それ以外の権利(所有権)に分離し、住む権利は配偶者が相続し、それ以外の権利は、他の相続人が相続する」という仕組みです。
    • 配偶者居住権を活用すれば、奥様は自宅に住み続けられるだけでなく、生活をしていくための現金も手にできます。家を売却する必要もなくなります。
    • 配偶者居住権の使用には一定の要件が必要ですから、専門家に相談することをおすすめします。
  • 【備考:配偶者短期居住権】
    • 2022年4月からは、配偶者居住権だけでなく「配偶者短期居住権」も認められました。配偶者短期居住権とは、配偶者居住権が設定されるまでのあいだ、残された配偶者が住処を失ってしまうのを防ぐために認められた権利です。相続が発生した日から、以下のいずれか遅い日まで配偶者が引き続き自宅に住み続けられます。
    • ■遺産分割が終わるまで
      ■相続開始(被相続人の死亡)から6か月
    • たとえば、2022年3月1日に相続が発生した場合、同じ年の6月1日に配偶者以外の家族が自宅を相続することが決まったとしても、配偶者は2022年9月1日まで自宅に住み続けられます。
    • 配偶者居住権と配偶者短期居住権は「第三者に譲渡したり売却したりできない」「自宅の修繕費は、権利を取得した人の負担」などの点が共通です。
    • 一方で配偶者居住権は、建物全体におよぶ権利であるのに対し、配偶者短期居住権は、建物のうち居住部分のみに権利がおよびます。また、配偶者短期居住権は、配偶者居住権とは異なり登記をして第三者に対抗できません。