第155回長年受け継がれてきた土地放送日:2021.04.15

  • 質問者Aさん:50代男性 (妹、母が今回の相続人)
  • Q.
    私の実家は酒屋を営んでおり、亡くなった祖父が約60年前に取得した土地上に店舗を構えて商売を続けてきました。亡くなった父からも、「家業と土地は長男が継ぐ」と言い伝えられてきたため、父は遺言も用意しておらず、遺産分割協議も行っていませんでした。

    この度、3代目の私の代でやむなく家業を廃業することとなり、代々伝わってきた土地上にはマンションを建てて有効活用したいと考え、建築資金の借入れのために銀行に相談に行きました。しかし、銀行からは、「土地の登記名義が祖父のままとなっている。このままでは抵当権を設定できないので、融資することは難しい」と言われてしまいました。すでに祖父は亡くなっていますし、どうしたら良いのでしょうか。
  • A.
    銀行から資金の融資を受けるためには、担保を提供する必要があります。相談者Aさんは、父親から相続した土地を担保に入れてマンションの建築資金を借り入れようと考えましたが、銀行が担保権(抵当権)の登記をするためには、融資を受ける予定の人(Aさん)がこの土地の所有者であることが登記上明らかになっていることが必要となります。

    Aさんが土地所有権の登記をするためには、まず、Aさんが父親からこの土地を「単独で」相続したといえることが必要です。父親が遺言で「この土地をAに相続させる」と残しておいてくれればよかったのですが、それがない場合、父親の相続人全員で遺産分割協議を行い、Aさんがこの土地を相続することについての遺産分割協議書を作成しなければなりません。

    さらにこの事例では、土地の現在の名義がAさんの祖父となっていますので、父親が祖父からこの土地を「単独で」相続したことも必要になってきます。祖父も遺言を残していないようですので、祖父の相続人(たとえば父親の兄弟姉妹など。兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子など)の間でも遺産分割協議を行わなければなりません。

    この事例のように、第1次相続(祖父の相続)について協議をせず放置している間に第2次相続(父親の相続)が発生してしまうケースのことを数次相続といいますが、放置期間が長くなればなるほど相続人の総数が増え、互いに面識がない人も出てきて、遺産分割協議を取りまとめることが困難になってきます。そうすると、いつまで経っても遺産を活用することができないというトラブルに巻き込まれてしまうのです。

    このようなことが起きないように、事前に「遺言」を書いておくことが重要です。相続が始まってから出来る事は多くありません。相続対策の第一歩は、「遺言」を作ることです。