第149回認知症と相続①放送日:2021.03.04

  • Q.
    親が認知症のため施設に入ることになりました。そこで、親名義の不動産を売り、費用に充てたいと思っているのですが、どうしたらよいでしょうか。勝手に親の持ち物を売却することはできないですよね?
  • A.
    実家が所有する不動産は、何となく「家族みんなのもの」という意識があるかもしれない。しかしいざ売却となったとき、名義人が親であれば、本人の意思確認が必要になり、「勝手に」売却はできません

    親が元気なときは、「売却する」という意思が確認できれば、子どもが親を代行して書類準備や手続き、立ち合いなどを行うことはできる。もし親が「体力の衰えを理由に施設に入る」などの理由で手持ちの不動産を売却したい場合は、親の意思を受けて子どもが代行するほうが面倒はない。

    しかし、逆に身体は健康そうであっても、その発言や行動などから、同席した司法書士が名義人の「意思確認ができない」と判断した場合、司法書士は決済をストップすることができる。財産の処分に関して、「本人の意思」は極めて重要だ。

    こうしたケースで利用されるのが、成年後見制度だ。これは認知症、知的障がい、精神障がいなどが原因で判断能力を欠く人のために援助者を選任して、法律的なサポートを行うものだ。

    成年後見人は本人に代わって財産管理や介護施設入所への契約、遺産分割の協議などを行える。本人の能力によって、後見(判断能力が全くない)・保佐(判断能力が著しく不十分)・補助(判断能力が不十分)の3つの分類があり、親族、弁護士、司法書士、社会福祉士、法人、市区町村長が成年後見人になることができる。最近では一人暮らしの高齢者が増えた最近では、市区町村長が成年後見人になるケースも増えている。成年後見制度の申し立てが行えるのは、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、検察官、市区村長などだ。
    成年後見人の申し立ては家庭裁判所に対して行い、記載された成年後見人候補者が適任であるかどうかが審理される。場合によっては候補者以外の弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職、法律または福祉に関する法人などが選任されることもある。
    また、成年後見人は後見が終了するまで、行った職務の内容を定期的にまたは随時、家庭裁判所に報告する義務がある。
  • 売却したい不動産が自宅の場合は、以下の流れで行う必要がある。
  • 1.本人の所在地を管轄する家庭裁判所に「成年後見制度開始」の審判を申し立てる
    2.家庭裁判所から依頼された医師が本人の意思能力を評価し、診断書を作成
    3.後見人の選定、審判の確定
    4.不動産会社と売買契約、買主を探す
    5.本人に代わり、成年後見人が買主と売買契約を結ぶ
    6.家庭裁判所の許可
    7.家庭裁判所からの許可後、売買代金の精算、所有権移転の登記が行われる