第105回遺言と法定相続・寄与分と特別受益放送日:2020.04.30

  • 【遺言と法定相続・寄与分と特別受益】
    登場人物:父(死亡)、母(死亡)、長女(質問者)、次女
    財産内訳:自宅(3000万円)、預貯金(2000万円)
  • Q.
    父が亡くなり、相続人となったのですが、法定相続分通りに遺産を受け取ることができるのでしょうか。
    父は遺言書を残していませんが、付きっ切りで介護をしていた私の妹に財産を多くあげたいと話していました。

    また、多額の贈与を受けた場合、相続に影響があるとも聞きました。
    私が家を購入する際、父が頭金として1,000万円を出してくれたのですがこれは相続に関係がありますか?
  • A.
    結論から言えば、必ずしも法定相続分どおり遺産が分割されるとは限りません。民法で定められた法定相続分よりも、遺言書があれば遺言書の内容が優先されます。今回のように遺言書を残していない場合は、基本的には法定相続通りに遺産を分割することになりますが、特例があります。

    例えば、介護をしていた妹さんには「寄与分」というものが認められる可能性があります。
    被相続人財産の形成・維持に貢献した相続人がいる場合には、「寄与分」として寄与分のある相続人の相続分が増加方向に修正される場合があります。

    また、家の頭金として1000万円を受け取っているのであれば、「特別受益」というものが認められる可能性があります。これは、遺産分割の前渡しを受けたものとして取り扱われ、特別受益を受けた相続人の相続分が減少方向に修正される場合があります。

    「寄与分」や「特別受益」も基本的には、遺産分割協議として相続人みんなで話し合って決めるものです。また、「寄与分」や「特別受益」というのは、相続人間の公平を図るものですので、相続人間が公平になるように 、法定相続分を修正していくことになります。
  • ≪特別受益≫
    特別受益とは,被相続人から共同相続人の中の特定の人に対する,①遺贈,②婚姻や養子縁組のための生前贈与,③生計の資本としての生前贈与のことを言います。
    ②の例としては,持参金や支度金が当たりますが,結納や挙式費用は当たらないとされています。
    ③については,生計の基礎として役立つような贈与全般が含まれ,相当額の贈与であれば,広く含まれるとされています。具体例としては,会社の立ち上げ資金や選挙費用の贈与,自宅の建築資金の贈与等が当たります。なお,学費は基本的には当たらないとされています。
  • 【身寄りのない人の相続】
    登場人物:夫(死亡)、妻(質問者)、長女、長男
    財産内訳:自宅(2000万円)、土地(1000万円)
  • Q.
    私の家の隣には、身寄りのないおばあさん(Aさん)が住んでいましたが、最近亡くなられました。家には現在は住んでいる人もおらず空き家となっています。家や土地など、亡くなったAさんの財産はどうなるのでしょうか?
  • A.
    身寄りがないということで相続人が存在しない場合は、相続人不存在ということになります。相続人がいるけれども、当該相続人全員が相続放棄をして、結果として相続する人がいなくなった場合も同様です。相続人不存在のように、相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人となります。つまり、相続財産が法人となって独立した人格を持つことになり、他の人が勝手に処分することができなくなるということです。

    この場合、Aさんにもしお金を借りている人がいたとしても、勝手にAさんの財産から回収することは出来ません。債権者は、利害関係人として、家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任を申し立てることができます。

    相続財産管理人というのは、相続財産の管理・保存に関する権限を持つ人です。相続財産管理人は、家庭裁判所が選任するのですが、弁護士などの専門家が選ばれることが多いです。相続財産管理人は、被相続人に対する債権者や受遺者に対し、2ヶ月以上の期間を定めて、請求の申出をすべきことを公告します。債権者や受遺者は、相続財産管理人に請求の申出をすれば、相続財産法人の財産から弁済を受けることになります。

    では、債権者に弁済したとしても、Aさんの財産が残る場合どうなるでしょうか。
    相続財産管理人によって6ヶ月以上の期間を定めた相続人捜索の公告がなされます。相続人がいるのであれば名乗り出てくださいという手続きをとるのです。この期間に誰も名乗り出なかった場合、特別縁故者に対する相続財産の分与が行われる可能性があります。

    亡くなったAさんと特別の縁故があった人のことを指します。特別縁故者として相続財産の分与を受けるためには、家庭裁判所に請求して、特別の縁故があったことを認めてもらわなければなりません。特別縁故者の例としては、亡くなった人と生計を同じくしていた人や、亡くなった人の療養看護に努めた人等が挙げられており、これらの例と同視できるくらい縁故が濃厚であることが必要と考えられています。

    残った財産のうちに共有物がある場合は、亡くなった人の共有持分は他の共有者に帰属します。それ以外の残存する相続財産は国庫に帰属することになります。特定の人や特定の団体に財産をあげたいという希望があるのであれば、遺言や生前贈与などを検討するのがよいと思いますよ。特に遺言は法律で要件が決められていますので、遺言作成を希望される場合は、専門家に相談してみることをお勧めします。