第104回相続の対象となるもの・ならないもの。一身専属権について放送日:2020.04.23
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- 【相続の対象となるもの・ならないもの】
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登場人物:父(死亡)、母(死亡)、長女、次女、長男
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- Q1.
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先日、私の父が亡くなりました。母はすでに亡くなっていて、相続人は、私と妹と弟の3人です。資産形成に活動的だった父は、たくさんの財産があったと思うのですが、私たちがどのような財産を相続することになるのかよくわからず困っています…。
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- A1.
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何が相続の対象となるかについて、民法が定める原則は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」(民法896条本文)というものです。お父様の土地、建物、自動車などの所有権をはじめとする物権はもちろん相続財産の対象となりますし、預貯金や貸付金などの金銭債権も相続財産の対象となります。権利だけでなく、お父様の借金などの債務も相続の対象となるのでご注意ください。
では、相続の対象とならない財産は全くないのかというと、実はそうとも限りません。
まず、系譜、祭具及び墳墓などの祭祀財産の所有権は、相続の対象となりません(民法897条1項)
また、民法は、「被相続人の一身に専属したもの」については、相続の対象とならないとしています(民法896条但し書)。
「被相続人の一身に専属したもの」とは、つまり、被相続人以外の者がその権利や義務を有しているのは適当でない権利や義務のことをいいます。たとえば、著名な音楽演奏家が予定されていたコンサートの前に亡くなってしまったとしましょう。そのとき、コンサートで演奏をする債務は、その著名な音楽演奏家でなければ、債務の履行をすることができませんから「被相続人の一身に専属したもの」として、相続の対象にはなりません。その他の例として、使用貸借契約における借主の地位、雇用契約における使用者・労働者の地位、委任契約における委任者・受任者の地位などが挙げられます。
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- Q2.
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父は、会社を設立して自ら代表取締役として仕事をしていたのですが、代表取締役の地位や会社の財産はどうなるのですか。
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- A2.
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会社と取締役との間の契約は、委任契約の一種です(会社法330条)。そして、委任契約における委任者・受任者の地位は、先ほど申し上げましたとおり、一身専属権として、死亡によって終了します(民法653条1号)から、取締役の地位は、相続の対象にはなりません。また、会社名義の財産は、会社の所有物であってお父様の所有物ではありませんから、相続の対象とはなりません。もっとも、もし仮に、お父様が、個人事業主として事業をされていたのであれば、その事業にかかわる権利義務はお父様に帰属しているでしょうから、原則として、相続の対象となるでしょう。